紳士とアヒル


No.3


ぼくはどうしてここに来てしまったんだろう。歩きながら思考を巡らせてみた。
だが、考えても考えても心当たりがなかった。
地上に強い未練を残したつもりもない。
そもそも、ぼくは物事にそれほど執着なんてしないタイプだ。
生まれて、生きて、病気になって、人より少し早く目を閉じた。
ただ、それだけたった。

 

ぐるぐると同じことを考えているうちに、胸の奥から強烈な感情が湧き上がってきているのに気が付いた。

 

『星が見たい』

 

それは胸に始まり、手、首、足、そして頭のてっぺんまで、体中を支配していった。

 

『星が見たい』

 

ついには息切れをし、苦しくて吐き気までするほどだった。
ぼくはその場にうずくまり、しばらく動けなかった。

 

ついには息切れをし、苦しくて吐き気までするほどだった。
ぼくはその場にうずくまり、しばらく動けなかった。

星が見たい。一刻も早く星が見たい。
空を見ると太陽が沈みかけていた。
なんだ、星が見れる時間になるまであと少しじゃないか。


ぼくは大きく深呼吸をして、近くにあった古びたベンチに座り、夜を待つことにした。

 

 


だけど夜が来ると、ぼくは自分が見ているものが信じられず、空から目が離せなかった。
この夜空に浮かんでいたのは、青い白い月がたったひとつだけ。
それもぼくの知っている月より何十倍も大きく、夜の世界を我が物顔で支配していた。

 

 

 

 

星なんて、ひとかけらも見えやしなかった。

 

 

ぼくは一晩中空を眺めた。
どうにかひとつでも、たったひとつでも星がないかと探し続けた。
だがやがて朝になり、昨日と同じ青い空が目の前に広がった。

誰かが言ってたっけ。『青は幸せの色だ』って。そんなのウソっぱちじゃないか。
ぼくは空から目を背け、ベンチから席を立った。

 

『星を探しに行こう』

 

ぼくの星への執着は、消える所か強まるばかりだった。
空に星が無いとわかっていても、どうしても諦めきれなかった。
ここまでひとつのことに強いこだわりを感じたのは、生まれて(死んだけど)始めてだった。
これだけの執着があるのなら、もしかしたら星を見つければ何かわかるのかも知れない。
ぼくがここに来た理由。その謎が解けるかも知れない。

 

それだけを心の支えに、ぼくは青の中へと歩き出した。



 

 

 

こうして長くて短い、ぼくの旅が始まったんだ。