ゾウとスズメ①



ぼくは大人になる途中で死んでしまった。
だからなのか、身体も心も特技も、何もかもが中途半端で、ぼくに誇れるものはひとつもなかった。

無事大人になれた兄弟たちは、街へ行ってたくさん勉強して、たくさん働いているのだろう。
大人になったらみんなそうするんだと聞いていた。
ぼくもそうなるんだと、ずっと思っていた。

この世界に来てすぐ、ぼくはあるゾウと出会った。
ゾウはいつもニコニコしていて、ゾウより数十倍ちっぽけなぼくを頭に乗せて歩いた。

ここら辺にはぼくとゾウ以外の生き物の姿はなく、いつもふたりぼっちだった。
ふたりで毎日のんびりしていた。毎日花を摘んだり海を眺めたりして過ごしていた。
だけど、ぼくの心はちっとものんびりしていなかった。
毎日毎日海の向こうの街を見ると、心の中に嵐が吹き荒れた。

街へ行かなければ。ぼくもたくさん勉強してたくさん働いて、大人にならなければ。
だけど街は海の向こうにある。
ぼくは空を飛べるからいいけど、ゾウは空を飛べない。
この距離を泳ぎ続けることも、きっと厳しいだろう。
大人になるためにはゾウと別れなければならない。
ゾウをひとりぼっちにしなければならない。
恨まれるだろうか。悲しまれるだろうか。ゾウの泣く姿を想像すると、ぼくは胸が痛んだ。
ぼくはいっぱいいっぱい迷った。

「海を渡る、街へ行く」

ある日ぼくは意を決してゾウに言った。

「もう決めたんだ。日が沈む前に出発する」
ぼくの声は震えていた。ゾウの顔を見るのが怖く、ずっとうつむいていた。
しかしぼくの想像に反して、ゾウはゆっくり花を動かすと、ぼくに一番きれいな赤い花を詰んで渡してきた。

 

「わたしは海を渡れないけど、頑張ってね」

 

 

ゾウはこれからひとりぼっちにされるのに、ぼくに恨み言も悲しみの言葉も言ってこなかった。
いつもの通り、いつも以上に優しく笑っていた。
笑顔のゾウに対比して、ぼくは少しくちばしをかみしめた。
涙を流されるより、ずっとずっと辛い気持ちになった。
だけど、今日は雨が降っていないから涙は流せなかった。

ぼくは赤い花を咥えて、海の向こうの街へと飛んだ。
海を渡っている時、一度も振り返ることは出来なかった。

その②へ続く


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